木村政雄の私的ヒストリー

HISTORY

第話

 明けて2009年、この年は元旦に高輪神社、4日に難波神社へお参りし、10日にはパルコ劇場で志の輔さんの落語会を観て、12日に娘の成人式写真を高輪プリンスで撮り、13日には六本木ヒルズのJWAVEで「LOHAS TALK」に出演、その間に大阪や埼玉、八王子などで講演をしながら、なぜか25日、妻と2人で京阪バス主催の「都七福神巡り」に参加しました。朝、京阪三条を出発して、六波羅密寺(唯一の女神・弁財天)、ゑびす神社(ゑびす神)と、東寺(毘沙門天)、松ケ崎大黒天(大黒天)、赤山禅院(福禄寿)、行願寺・革堂(寿老神)、黄檗山万福寺(布袋尊)を巡り、ここでツアーを離れて、嘗て住んでいた伏見へ出て、またしても弁財天を祀る長建寺へお参りした後、懐かしい南浜小学校や、酒造会社の月桂冠を眺めながら、寺田屋の手前を右折して、竜馬通り(かつての車町)、納屋町、大手筋を歩いて帰宅しました。

 そもそも、「七福神」とは室町末期に唱えられた民間信仰で、七福神を参拝すると、7つの災難が除かれ、7つの幸福を授かると言われます。私が弁財天だけを2度も訪れたのは、他の神が叶えるという商売繁盛や富徳開運、笑門来福、人望、長寿よりも、きっと、弁財天が叶える「財宝」や「縁結び」の方に惹かれたのかもしれません。

 ちょうどこの頃、アメリカの44代大統領にオバマさんが選ばれて、人気を博していました。「変化」や「希望」、「連帯」などシンボリックな言葉を並べ、最後に「YES WE CAN」と締めくくる話法は、格調の高さとレトリックの巧みさもあって、アメリカのみならず、日本の人々の心も捉えていました。21日に行われた就任式の生中継で、演説の始まった深夜2時8分には視聴率が7.2%に達したと言われます。前4週の平均視聴率や、4年前のブッシュ大統領の就任式の視聴率の視聴率が1.5%であったのに比べると破格の数字と言っていいかもしれません。この年に朝日出版社から発売された「オバマ演説集」は40万部が売れ、2009年で、最初のベストセラーとなりました。

 アメリカ人が熱中するのは分かるけど、ここまで日本人が嵌るのはなぜか?さっさとベッドに入り、翌朝の新聞でチェックした私には理解できなかったのですが、嬉々として、「アメリカが変わる瞬間を目撃出来て、良かった!」と語る知人を前にして、「それより、日本が変わる瞬間を見たい!」と心の中で呟いたのを憶えていますが、ちょうどこのオバマ演説が行われた半日ほど前、日本の国会では参議院予算委員会の席で、質問に立った民主党の石井一副代表が、麻生太郎首相に「あなたの漢字力で、この漢字が読めますか?」と、前年11月に発行された月刊誌「文芸春秋」の首相の手記を突き付けていたのです。何たる彼我の差でしょう、オバマさんに惹かれる日本人の気持ちが少し解った気がしました。

 ちょうどこの頃、母が入院しました。灯りの消えた楠葉の実家へ帰ると、人のいる気配がなく、同じ町内にいる姉からの手紙が机の上に置いてあり、電話をかけて、カーペットにつまずいて入院したことが分かりました。10年ほど前に転んで大腿部を骨折して、人工関節を入れてはいたのですが、病院を訪ねると、「さすがに再手術は無理だけど、幹部を固定してリハビリに励めば、依然に近い生活は出来るだろう」とのことで一安心しましたが、私にはもう1つ厄介な問題が生じてしまったのです。たしか、不可侵条約を交わしたはずなのに、母の見舞いを理由に、妻が頻繁に大阪を訪れるようになったのです。こんなことなら、妻子の呪縛から逃れ、安寧の時を過ごすため、いっそ私の方が入院したくなりましたね。

 

 

 

 

 

 

長建寺

 

南浜小学校

 

月桂冠酒造

 

龍馬通り

 

納屋町

 

 

 

麻生さんとオバマさん

 

「読めるか?」と追及する石井一さん

 

 

これは独ソ不可侵条約

 

これも不可侵条約