木村政雄の私的ヒストリー

HISTORY

第話

 こうして、松川君の後釜を考えなければならない状況に陥ったわけですが、ただ座して待っているわけにもいかず、それとなく周辺をあたって候補者を探すうち、2人の候補が浮かび、さっそくお会いする運びになりました。まず、お目にかかったのは、テレビ局や広告代理店で、事務職として働いていた方なのですが、即戦力とはなっても、私の仕事にいまいち興味があるようには思えなかったこともあって、お断りをさせていただきました。ただ務めるのなら、先行きの分からない我が事務所などより、安定した企業へ務めた方がいいに決まっています。次に、候補として浮かんだのが、制作会社に勤務している女性で、キャラクターや手腕共に申し分のない方だったのですが、私にとって悪いことに、年末までどうしても離せない仕事を抱えていたこともあって、「来年からなら!」と言ってはいただいたのですが、松川君がいなくなって以降、2カ月あまりの空白期間を置くわけにもいかず、この人も諦めざるを得ないという状況に追い込まれていたのです。

 ちょうどその頃でした。たしか5月10日のことだったと思います。たまたま、リクルートの関西支社で営業を担当していた澤直子さんから、彼女が敬愛する「先輩の渡瀬ひろみさんが来阪されるので、一緒に食事をしませんか?」というお誘いがあったのです。渡瀬さんはブライダル情報誌「ゼクシイ」の生みの親で、その後も数々の新規事業の立ち上げにも携わってこられた方で、私が一柳さんから誘われて当時審査員を引き受けていた「EOY」(アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー・ジャパン)で世話人をされている際に、何度かお目にかかっていたこともあって誘いに乗り、松川君共々、北新地の「吹上庵」という薩摩地鶏の店へ出かけました。そうそう、澤さんも、一柳さんが大阪で始められた「ベンチャー・コミュニティ」をお手伝いされていて知り合ったことを考えると、お二人とも一柳さんがらみで知り合ったことになるわけです

 私以外の女性陣は、3人とも「いける口」だったこともあって、90種の焼酎と20種の日本酒を揃えた店が気に入ったようで、大いに盛り上がり、私がふと、「実は松川君が、結婚のために秋に退職をするんだ」と伝えたところ、酒の勢いもあったのか、ノリのいい澤さんが「じゃ、私が行こうかな?」と口走ったのです。

 それから4日後の14日のことでした。私が大阪の南港にあるATCホールで開かれるリクルート主催の「FC独立開業フェア」で講演をする前に、ぜひ会いたいという電話が、澤さんから入ったのです。「まさか、あの話を真に受けて!」とは思ったものの、「彼女には彼女なりの考えもあってのことだろう」と考えて、近くにある大阪ハイアット・リージェンシーホテルで会うことにしたのです。聞くと、彼女は3年契約で入ったリクルートの営業職を、この春に契約を更新をしたばかりだというのに、既に「退職して我が事務所に入りたい」と直属の上司に伝えたというのです。

 思いもかけなかった話に戸惑いつつ、そこまでされては、こちらも後に引くわけにはいきません。彼女の意思を真摯に受け止めて、松川君の後を彼女に委ねることに決め、週明けの23日に、事務所ビル地下にあるワインバーの「イーバン・ミルソン・オンズ」で松川君にその意向を伝えました。10月には結婚式を控えていることもあって、松川君には8月末まで勤めてらうことにして、それまでに澤さんとの引継ぎをしてもらうことになったのです。例え、歩んできた業界は違っても、その前向きな姿勢と、持ち前の明るさで、澤さんならきっと頑張ってくれるだろうという予感もありました。

 しばらく経って、いつしか松川君が結婚退職することが皆に伝わり、彼女の人徳もあって、あちこちから送別会の声がかかり、おかげでその都度、私もご相伴にあずかることができました。

 そうそう、この年の夏休みは、「朝ズバ!」が世界陸上で放送がないこともあって、8月12日からトルコへ行くことにしていたのですが、前日に、シューズメーカーの「月星化成」(現「ムーンスター」)さんの講演で久留米へ行き、そのまま福岡空港から羽田まで帰るはずが、肝心のパスポートを大阪の実家に置いたままだと気が付いたのは、久留米から福岡空港へタクシーを走らせている最中でした。「さて、どうするか?」、既に予約をしていた19時45分福岡空港発の羽田便を急遽キャンセルして、博多駅に向かい、20時7分発の新幹線のぞみ号に飛び乗り、新大阪に22時28分に着き、実家のある枚方市の楠葉までタクシーで帰宅、パスポートを携えて翌日朝8時40分伊丹発の飛行機で成田に向かい、妻と合流をして12時5分発のエアフランスで、無事に経由地のパリへ向かうことが出来ました。

 とっさに、この手を考えることが出来たのは、私がマネージャーをやっていた頃の経験が生きたとも言えますが、妻との詳細な連絡や、実際にチケットの予約などをしてくれた松川君のおかげでもありました。旅行中も、イスタンブールからアンカラまで夜行列車で移動した日を除いては、行く先々のホテルに、先回りをしてその日のレポートをしたFAXが必ず入っていました。今でも、松川君は、最後まで完璧なパートナーを務めてくれたと感謝をしています。

三者問題「どれが正解かなあ?」

 

(左)渡瀬ひろみさん (右)澤直子さん

 

北新地 吹上庵

 

店内には各種の酒が・・・

 

鶏刺し

 

鶏なべ

 

ATCホール

 

リクルート主催の「FC独立開業フェア」にて渡瀬さんと

 

大阪ハイアット・リージェンシー・ホテル

 

月星火成 田中久義 社長

 

 

 

 

 

飛んでイスタンブール

 

(左)松川さん (右)澤さん