木村政雄の私的ヒストリー

HISTORY

第話

 環境省からご連絡をいただいて、「夏の新しいビジネススタイル名称審査委員会」に出席させていただいたのは、4月25日のことでした。メンバーは、小池百合子環境大臣の他に、デザイナーのコシノヒロコさん、菊池武夫さん、ドン小西さん、ファッションコメンテーターの四方義朗さん、電通マンで、作家・クリエーター・写真家の新井満さん、漫画家の弘兼憲史さん、宣伝会議編集長の田中理沙さん、ビートたけしさんのお兄さんで淑徳大学教授の北野大さん、そして私というメンバーでした。

 オフィスワークをする時に、「上着+ネクタイ」と「ノー上着+ノーネクタイ」とでは、体感温度で約2度の差があり、冷房の設定温度を上げることでCO2の排出量も削減でき、温暖化対策にもつながるというものです。とは言え、嘗て羽田孜元首相が愛用されていた「省エネルック」のようなダサいスタイルでは普及するはずもなく、小池大臣らしく、スマートな名称、ファッショナブルなデザインを提案しようという試みだったのです。気象庁の予測では、100年後に日本の平均気温は2~3度上昇して、東京は鹿児島並みの気温になると言われていました。かといって、皆が沖縄のように「かりゆしウエア」で過ごすというのも無理、やはりここは、快適に夏を過ごすサマービジネスウェアが必要だろうということなのです。

 しいて言えば、この何か月か前に、羽田から同じ便で伊丹空港に着いて、ターミナルに向かう道すがら、二言三言、小池さんと言葉を交わさせていただいたくらいの私に、なんで声がかかったのかは分からなかったのですが、好奇心も働いて参加することにしたのです。そうそう、あと一人、日常生活におけるコマメな環境配慮の実践を呼びかける「コマメチャン」というキャラクターもいましたね。このメンバーで協議をして、事前審査に応募した約3000通の中から選ばれた「衣類の軽装化キャンペーン」の名称が「COOL BIZ」(クールビズ)だったのです。

 しばらくたって、私が手にした週刊誌のグラビアに、「夏がクール?」の見出しと共に、デザイナーのコシノヒロコさんの前で、直立されているオリックスの宮内義彦会長の写真が載っていたことがありました。「コシノさんのシャープな視線に、宮内さんがビビッて、クールな思いをされているのか?」と思い、先を読み進むと、なんと、軽装スーツのデザインを担当するコシノさんが、宮内会長をモデルに仮縫いをされている姿だったことが判明して、自分が「名称審査会」に参加していたことを忘れて、大笑いしたことがありました。

 当初は、政界でも塩川正十郎さんが、クールビズで閣議に臨む安倍総理を表して、「寝巻で閣議に出るのはやめた方がいい」といったネガティブな反応もありましたが、次第に浸透し、第一生命では、経済波及効果は1000億円、第2クォーターの名目GDPを0.05%押し上げるとの試算を発表しました。

 次いで8月22日には、「 “ 秋冬のCOOL BIZ ” 検討委員会」も開かれクールに対応するホットがいいという意見もあったのですが、「HOT BIZ」がすでに東レさんから商標登録をされていたこともあって、「WARM BIZ」(ウォームビズ)とすることになったのです。この折にメンバーの中で私一人がネクタイで出席して、小池さんから「あらっ!」見咎められたのを憶えています。こちらの方は、同じ第一生命経済研究所では経済波及効果を、2323億円と予測しました。

 おかしかったのは、12月22日に有明の東京ビッグサイトの東 第3ホールで開かれた「クールビズコレクション2006」に顔を出した際のことです。スタッフに案内されたのが、最前列。コシノヒロコさん、菊池武夫さん四方義朗さん、ドン小西さんに並んで私が座り、こんな席に座っていいのかなと思いながら、石田純一さんや元木大介さん、丸山弁護士、コカ・コーラの魚谷雅彦社長、JOC竹田恒和会長に続いて登場されたカゴメの喜岡浩二社長が、気恥ずかしさを抑えながら、堂々とキャットウォークを歩かれているのを見て、「足の長さやポーズの美しさよりも、積み重ねてきたキャリアの方が人を輝かせるんですね!」と隣のドン小西さんに話かけようとすると、「なんで俺のデザインした服がないんだ」と愚痴っておられる声が耳に入って、言葉を飲み込んだまま、そーっと席を離れました。そういえばたしか、4月の委員会でメンバー表を見た時、私や「コマメチャン」に肩書がないのは当然のこととしても、ドンさんの名前の横に、デザイナーと書かれてはいなかったことを思い出しました。

 

 

「夏の新しいビジネススタイル名称審査委員会」

 

名称審査委員会のメンバーの皆さん

 

 

 

 

 

コシノヒロコさん

 

 

 

 

 

これは「クールビズ」ではありません

 

これも「クールビズ」ではありません

 

 

 

 

 

 

 

中央の「ら」が田中理沙さん、左の「ら」が私です。日経新聞(2005年8月23日付)

 

朝日新聞(2005年8月23日付)

 

時には辛いこともあるのです

 

カゴメの喜岡浩二社長