99年には大阪を揺るがす出来事がありました。大阪府知事・横山ノックさんの「セクハラ事件」でした。68年に人気漫才の「漫画トリオ」を解散して、参議員を全国区で2期、大阪地方区で2期務めたノックさんは、95年、阪神大震災の後、無党派を旗印に大阪府知事選に立ち当選、議会がオール野党の中、大阪府の赤字解消などに成果を上げました。同じ95年に都知事に選ばれた青島幸男さんが、99年に2期目の出馬を断念せざる状況に追い込まれ、代わって石原慎太郎さんが選ばれた東京と違って、大阪では、2大政党が対立候補の擁立を断念する中、ノックさんは史上最高となる235万票もの支持を得て、2期目の当選を果たしたばかりでした。タレントとしての知名度や、愛されるキャラクターもあって、庶民の人気も高く、唯一の対立候補である共産党の推す大学教授・鰺坂真さんとの戦いを「アジとタコの戦い」と表現し、相手を自らの土俵に引き込んだ見事な戦略の勝利でした。鰺坂さんは「あんた、大丈夫?」と近づいて、まんまと池乃めだかさんの必殺技、「蟹ばさみ」にしてやられたような思いをされたのではないでしょうか。
この現象を目の当たりにして、前年にお目にかかった、CMプランナーの堀井博次さんが雑誌「AERA」の「同志社からの道」というページでお話になっていたのを思い出しました。ちょうど同じ号に私も載せていただいたこともあって印象に残っていたのです。当時はたしか電通関西のクリエイティブ局長をされていて、ピップフジモトや、「きんさん・ぎんさん」を起用したダスキン、関西電気保安協会、キンチョーなど、関西からヒットCMを連発してこられた方で、CMつくりの秘訣を尋ねられ、「今まで広告が取り上げてきた人間って、強い、美しい、健康だといった正の面ばっかりやったんです。僕らがコミュニケーションの回路にするのは、どちらかというと負の面なんです。弱点、欠点、愚かさ、そんなところにスポットを当てて・・・。僕なんか立派な人よりダメな人間の方が好きです。世の中、弱者の方が多いでしょ。強者なんて一握りやし。そういう人らが、CMを見て、そういわれたら、わしらもアホやなとか、もうひとつ情けないなとか感じる。そんな共感性が、CMを届ける場合に橋渡しになってくれるのかと思いますね。」と語っておられたのです。もっとも、私がお目にかかった時は、そんなことはおっしゃらず、「電柱を造ってる会社と間違えて電通に入社してしまった」とおしゃっていました。まさかそんなことがあるわけはないのですが、こうして「私はただの町人でございます」と入って、相手の懐に飛び込むところが、関西人のメンタリティに響くのだろうなと思わされました。この辺り、同じ演芸の世界から政界に転じられた方でも、ノックさんとコロムビア・トップさんとでは、スタンスの取り方が全く違っていましたね。
と、ここまでは良かったのですが、この後ノックさんに「好事魔多し」という諺通りの事件が起きたのです。選挙にかかわった女性運動員から「セクハラ訴訟」を起こされてしまい、本人は頑として否定を続けたものですが、12月13日の民事裁判で、「セクハラ訴訟」としては過去最高額となる罰金刑を受け、更に、同月21日には、地検特捜部から強制わいせつ罪で在宅起訴をされて、辞任する事態に追い込まれてしまったのです。
漫画トリオ
自転車に乗って選挙活動
当選して花束をもらうノックさん
十八番の「タコ」ネタ
「アジとタコの戦い」
FOCUS(99年4月14日号)
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