木村政雄の私的ヒストリー

HISTORY

第話

 大阪・東京を頻繁に往復するようになると、飛行機を利用する機会も増えてきます。単独の仕事でいく場合は多少ゆとりのある便を予約するのですが、劇場の合間を縫って移動する場合は、どうしてもギリギリ、間に合うかどうかという便を取らざるを得ないこともあります。しかも出発の15分前にはチェックインを終えていなければならないので、時として番組の終了前に現場を離れて先に空港へ行き、後から来るタレントさんを待つことも多々ありました。やす・きよさんと再々移動していた私もいつしかカウンターで顔を覚えられ、チェックインの際に「3人ともお揃いなんでしょうね?」と念を押されるようになりました。その都度、「来てはいるんですが、ちょっとトイレに行ってまして」などと誤魔化してはいましたが、すっかりバレていたと思いますね。

 それでも間に合いさえすればいいのですが、間に合わなかったら大変です。すぐさま次の他社便に振り替える、エンドースという手続きをしなければなりません。乗るはずだった便の航空会社に裏判を押してもらい、他社便のカウンターへと走るのです。無事手続が終わったら劇場へ電話。「交通渋滞で間に合わなかったので劇場の出番の変更をお願いするわけです。とは言っても15~20分の遅れなら、それこそ人生幸朗さんなどにお願いして代わっていただければいいのですが、飛行機となるともう少し間隔が開きます。遂には最後に演る新喜劇の後に出演したこともありました。「お客さんが残っているかな?」やや不安げに舞台に出て行った2人を万雷の拍手で迎えていただいたお客さんの温かさに感謝しつつ、「もう、こんなことしちゃいけないな!」と思いましたね。

 今なら携帯電話があって逐一状況を伝えられたのですが、当時はまだ公衆電話しかなく、その都度、公衆電話のあるところまで走って掛けていたのですからよくやっていたなと思いますね。その後、多少は知恵もついてきて、次善の策として予め次の便も予約をするようにしてからは若干トラブルも減少しましたが、怒りのあまり受話器を叩き壊した劇場支配人の吉本さん、「本当にすみませんでした。」酒を飲まないときは本当に寡黙な人で、ご家庭では「風呂!」・「飯!」・「寝る!」の三言しか言わないというエピソードがありましたが、リタイア後の今も、それを通していらっしゃるのでしょうか?

劇場支配人の吉本さん、一体何台の電話機を壊されたんでしょうか?

 

別名「吉本の破壊王」・・・とまでは言われてませんでしたが・・・

 

当時の劇場出番表