木村政雄の私的ヒストリー

HISTORY

第話

 競馬というと、月亭可朝さんとのエピソードも忘れるわけにはいきません。私が制作部に配属されて、間もないころのことです。朝、出勤すると、いきなり先輩社員から「悪いけど、今からすぐ東京へ行ってくれ」とのお達し。東京12チャンネル(現テレビ東京)の「世界ビックリアワー」という番組に月亭可朝さん一家がゲスト出演するので、そのフォローをしろというのです。「い、今からですか?」と聞き返したものの、否も応もありません。「せめて前の日にでも言ってくれれば」という思いをぐっと飲みこみ、矢継ぎ早に段取りを説明する先輩の言葉が途切れるのを待って、「ところで、飛行機のチェックインでどうやればいいんですか?」と聞くのがやっとでした。

 何しろ、こちらは飛行機に乗ったこともなければ、東京へも中学の修学旅行以来1・2度位しか行ったこともありません。逡巡する間もなく、「遅れないように早く行け!」という先輩のありがたい言葉に送られ空港バスに乗り込みました。教えられた通りに、チェックインを済ませ、搭乗口で待っていると可朝さんと奥さん・息子さんが現れ、何とか無事に赤坂・ミカドでの収録を終えることができましたが、この時はこちらがフォローしたというより、むしろ可朝さんにフォローしていただいたというのが実感でしたね。

 以来、可朝さんとはそれほどご一緒することもなかったのですが、何年かして営業の仕事で久しぶりにお会いしたことがありました。ステージを終えた可朝さんに「お疲れさまでした」と言葉をかけると、可朝さんから「木村君、このまま家へ帰る?それとも○○○ランド(注:ディズニーランドではありません)」へ行く?」と言葉が返ってきたので、「せっかくのお誘いをお断りしても角が立つ」と思ってお受けしたのを覚えています。すっかり夜も更けたので、その日は西宮のご自宅に泊めていただきました。

 さあ、これからが大変だったんです。翌朝、お礼を言って帰ろうとしていると、可朝さんに呼び止められて「今日の阪神競馬の○○レースのこの馬券を買っておいて」と言って、5万円を渡されたのです。場外馬券場へ行く道すがらスポーツ新聞を見ると、大穴も大穴、到底来るはずもないような馬券でした。一瞬「呑んでしまおうか?」とも思ったのですが、もし当たれば到底自分で被れるような配当ではありません。そのまま場外馬券場へ行って、言われた馬券を購入したのですが、結果は見事に外れ。後で聞いたところこの可朝さん、過去に競馬で3000万円当てて借金を返したこともあったといいますから、呑まなくて本当に良かったと思います。

心斎橋の事務所を訪ねていただいた時のツーショット

 

チョビヒゲ、メガネ、カンカン帽が特徴の月亭可朝さん

 

「ボインはぁ〜赤ちゃんが吸うためにあるんやでぇ〜」で始まる、「嘆きのボイン」は大ヒットしました

 

1971年に放送開始した「新婚さんいらっしゃい!」の初代司会者を務めた月亭可朝さん。

桂三枝(現・文枝)さんと初代アシスタントの江美早苗さんとともに。

 

可朝さんが連載をされている新聞記事