木村政雄の私的ヒストリー

HISTORY

第話

 この原稿を書いている今、迷走台風が明日にも上陸しようとしていますが、台風で思い出したエピソードがあります。大阪のABCと西日本7局が共同制作していた「ワイドサタデー」でのことです。毎週土曜日の午後3時から4時まで、関西と加盟局の2つの地域を結んで多元中継される、当時としては珍しい形態の番組でした。司会はプロ野球解説者の佐々木信也さん、やす・きよさんは中継レポーターとして加盟の瀬戸内各局から出演をするのが常でした。学生時代から旅をするのが好きだった私には楽しい番組の1つでした。

 そんな「ワイドサタデー」の本番当日、1回目の出番を終えたやす・きよさんと劇場にいた私に1本の電話が入りました。なんと、天候不順で徳島行の飛行機が飛ばないというのです。飛行機に乗ればたった30分くらいで行ける距離なのに、さて困ったなと皆が思案にくれていると、横山さんが「そんなもん、ボートで直線で突っ切ったらええねん。あっという間に着くがな、間違いない!」とのこと。あまりの断定的な物言いに、皆が一瞬その言葉に引きずられそうにはなったのですが、念のためにと問い合わせると「波が高いから航行は不可能」とのこと。こういう時の、裏付けもないのに決めつける横山さんの発言には気をつけないといけません。でもなぜか変に説得力があるんですよね。「波が高いからダメみたいですよ」と告げるとたった一言「そうか!」で終わってしまうんですから憎めない人ではあるんですけど。

 結局、ABCが手配したヘリで中之島のビルの屋上から飛び立ち、吉野川の畔に降り立って事なきを得たのですが、冷や汗ものの1日でした。帰りは飛行機も飛んでいて、無事劇場の2回目の出番にも間に合わせることができました。

 放送局へ向かう際、渋滞している高速道路にイライラして、タクシーを降りて放送局まで走ったこともありましたね。本人はマラソンをやっていて平気だったのでしょうが、後を追った西川さんも私も到着した時にはぐったり。ほんとに迷惑な、でも愛すべき人でした。高速道路を走るなんて経験は、そうそう誰にでも経験できることではありませんからね。

ボート通勤をしていた横山さん

 

 

自宅から花月まで、20数キロを走って出勤していたこともありました