木村政雄の私的ヒストリー

HISTORY

第話

 傷心の横山さんに、さらに追い打ちをかけるような出来事がありました。事件の翌年、奥さんが2人の子供を連れて家を出てしまったのです。でも、そんな折に楽屋を訪ねてきた幼馴染の啓子さんと巡り合い、やがて結ばれることになったのですから、天の配剤というほかありません。ちょうど同じころ、啓子さんも2人の子を前夫側に残して離婚していたのです。

 一方の西川さんには、2人でやっていた仕事以外に新番組からも声がかかって、以前にも増して忙しい日々を送るようになっていました。ただ、「爆笑寄席」や「ABC学園」という集団コメディはともかく、仁鶴さんや三枝さんという一人芸の達人たちとコンビを組むというのは大変だったと思います。すべったり、空回りをしたり・・・。試行錯誤を重ねながら、それでも果敢に挑んでいく西川さんの姿を目の当たりにして、本当のプロの厳しさというものを教えてもらった気がします。同い年とはいえ、こちらはまだ社会人2年生、一方の西川さんは中学を出て早く芸能界に入り、苦労を重ねて立派に自立している大人。社会人としてのキャリアが違います。西川さんと2人で過ごす時間が多くなるにつれ、色んなことを教えていただきました。

 家庭の事情で上の学校へ行けなかったから、「芸能界に入って大学を出た同年代の人間が社会人になる22歳までに、何としても自分の家を持ちたかった」という話を聞いた時、ぼけーっと生きてきた自分の生き方が情けなく思えたものです。祇園・先斗町の料理屋さんや、千日前のすし屋さんなど、今までに行ったことのないようなところへも連れて行っていただきました。困ったのは、味覚というのはいったん上がってしまうと、下げることが難しいということです。おかげで、学生時代に「おいしい」と思っていた所が、「そうでもないな」と思うようになってしまいました。といって、そんな上等な店など、安月給の身で到底行けるわけもありませんからね。なんとも罪なことをしていただきました。

やすしさんと結婚をした啓子さん(昭和50年)

  

千日前の寿司屋「一半」                 先斗町の「一粒庵」